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謀反など、ましてや兄殺しなど、自分にはとても──
「信勝殿が討たなければ、いずれ不満を募らせた家臣たちの手によって、信長殿は討ち取られる事になるのですぞ」
相手に躊躇う隙を与えぬかのように、信友はすかさず言葉を重ねる。
信勝は思わず苦笑した。
「そんなまさか。いくら兄上がうつけと謗られるお方でも、家臣たちに討たれるなど…」
「有り得ぬ話ではございませぬ。ただでさえ人望の薄かった信長殿は、葬儀の一件で支持者を尽く失のうておりまする。botox小腿
それに近頃では、信長殿に仕える若い家臣たちと、先代から仕えし古参の家臣とが何かと対立している様子。
それもこれも、信長殿が身分を問わず、闇雲に無教養な餓鬼共を召し抱えられたが故じゃ。
いくら度量の深き古株連中でも、かような我が儘勝手を強いられ続ければ、信長殿に主君の器なしと見て必ずや反旗を翻しましょう」
「…信友様…」
「もしそのような事になれば、連中はこの機に乗じて尾張一円を奪わんと画策するやも知れませぬ。
そうなれば信勝殿。信長殿だけではなく、そなたや報春院殿、まだ幼い妹君にまで刀の先が向くかも知れないのですぞ!?」
その話を聞いた信勝は、何とも大袈裟で、馬鹿げた話だと思った。
…思ったが、信友があまりにも感情的に、また現実感を帯びた話し方をする為、
もしや本当にそうなる時が来るやもしれぬと、信勝も内心では動揺し、不安感を募らせていた。
「何も躊躇う必要はござらぬ。信長殿とて、家臣の手によって命を落とすよりも、実の弟君である貴殿に討ち取られた方が本望であろう」
「……」
「信勝殿。この織田家の末永い安寧の為、何よりも、お大切な方々を戦火から守る為にございます。
どうか一日も早ようご決断なされ、我々を安心させて下さいませ」
信友は双眼を伏せ、頷くが如く頭を垂れた。
信勝は無論それに返答などしなかった。
「考えさせてくれ」とも「暫し猶予を」とも告げる事なく、彼はそのまま信友を奥の広間へと誘(いざな)うと、
沢山の料理や酒。鳴り物などを催して、随行の家臣共々、至極鄭重な対応で持て成したのである。
信友が帰るまでの間、信勝は動揺した素振りは極力見せず、毅然と振る舞っていた。
しかしこの日、染み一つない真っ白な和紙の上へ、筆に含んだ墨がぽたりと滴り落ちたかのように、
拭っても消えない“何か”が、信勝の心の片隅を黒く染め上げていた事は確かであった──。
それから二日後の正午。
那古屋城の表御殿と奥御殿の境にある渡り廊下では、侍女のお菜津が、そわそわした様子で誰かの訪れを待っていた。
程なくして
「──お待たせ致しました」
と、池田勝三郎が辺りを軽く見回しながら、小走りでやって来た。
先日の暗澹とした姿が嘘のように、今日の彼は実に晴れやかな面持ちである。
勝三郎はお菜津に軽く一礼すると
「奥御殿のお方様にお言伝てをお願い申します」
彼女の耳元に口を寄せ、そっと要件を囁いた。